読書会「K社のとなり」

定員5名ていど、期間限定で開催中の小さな読書会の記録です。

連休特別企画その3・「本の達人あつまれ」報告

(2019年5月6日開催,参加4名)

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特別企画その3報告

1.本づくり(企画・編集・執筆)の達人は語る

これだけネットが普及発達した世界で、出版社を中心とした本づくり~流通はいまだにネット以前の方法論で行われています。制作過程は見えないようになっていて、紙媒体で多額の費用をかけて宣伝を行い、取次があって、書店がある。それを否定するわけではないが、オルタナティヴを提示したい。

たとえば現在進行中の企画では、当代きっての書き手十数名に依頼してある「お題」で5~10枚の短文を書いてもらいます。実は編集会議で

まず装幀を決めてもらい、その装幀をふまえて書き手が文章を考える

という案を出したのですが装幀担当の方に「それはちょっと……」と却下されてしまいました。書き手には「シリーズ全体のコンセプト」「今回のお題」「他の書き手のラインナップ」を開示した上でだいたいの〆切りが●月●日、というかたちで依頼をしています。

たとえば枚数ありきで、依頼の枚数ぴったりに仕上げるのがプロの技という言い方もよくされているが、本当にそれで良いものが生まれてくるのか。テーマも、実際には「書店で置かれる棚がはっきり決まらないと販売政策上困る」というような都合でSF、ミステリ、純文学といったジャンルに嵌め込んだりしているがそれでは真に新しいものが生まれてくることは期待できないのではないか?

宣伝についても、出版社の紙ベースの広告のみに頼るのではなくnoteなどで本の制作プロセスそのものを随時公開して、潜在的な読者との出会いの場を創り出していきたいと考えています。

2.曲読・誤読(自称)の達人は語る

自分には、本が正しく読めているという感覚がありません。本を読むのは嫌いではないし好きな作品もたくさんあるが、内容や好きなところ、良さをひとに説明する能力が圧倒的に欠けている。たとえば小説の中である出来事が起こる、それを九割以上の読者は「悲しい出来事」と受けとめそれを前提として話が進んでいくらしいが自分はその出来事をまず「悲しい」と受けとめることができず躓いてしまう、ような感じがあります。

あるいは物事をパターンという容れ物に分けて収納するのが苦手なのかも。個々の体験をすべて分類しないまま生の、それぞれ別の現象として自分の中に収めてきたが最近はそれも飽和状態になり苦痛をかんじている。

しかし苦痛が苦になっているわけでもなく、

これまで存在しなかった新しい自分が形成されていく過程を楽しんでいるようでもあります。

※ここで1.の本づくりの達人から「そういう性質は詩人としては貴重。否定したり強いて変えようとする必要はないのでは? むしろ勿体ない」というコメントあり

 3.本なくし(処分・売却)の達人は語る

本は宝。処分するなどとんでもない、と考えていた時期は私にはありませんでした。

仮にあったとしたら小学生くらいまででしょうか? 首都圏に越してきてからは公立図書館のヘビーユーザーですが、これまで読んだ本を全部手元に置いていたら生活する空間は残らないと思う。とにかく書棚に空きを作らないと新しい本を買えないので、18歳の頃から本は売り始めていました。

高く売れるのは自分で値段を決められるフリマなどの委託販売形式、今だとAmazonのマーケットプレイス、ヤフオクなど。通算数百冊は売っていると思います。しかし一冊ずつの処理で時間はかかるので、一定以下の値段しか見込めないものはブックオフ、ネットオフなどの郵送買取で箱単位で処分しています。家族に依頼されたものも含めると通算千冊は超えるでしょう。昔はひと箱数千円になることもありましたが、今はひと箱数百円ということのほうが多い。本を売るのではなくスペースを買う、と割り切ります。

さいきん開拓した販売ルートは「自分の書棚とシンクロ率の高い古書店に売る」。一度に十冊ていど持参して、査定を待つ間に大体この位の値段かな~と頭の中で見当をつける。ぴったり合ったときのジャックポット的快感と、次にそのお店を訪れたとき自分の持ち込んだ本が棚にしっくり馴染んでいるのを見る喜びはプライスレス!

4.本さがしの達人は語る

中高生の頃から、読みたい本は新刊では手に入らないものが多かったため、古書店回りを覚えました。一時は早稲田・神保町の主な古書店の棚がだいたい頭に入っており、この本を探すなら神保町の●●堂または××書店、と即座に答えられるくらいで、いつのまにか周囲の人から本探しの依頼を受けるようになりました。探すことそのものが自分には楽しみなので特に報酬は無しにです。

過去の難易度高めの依頼としては、たとえば吉田健一の全短編集。なかなか出る本ではなく数年かかって見つけた時には依頼主のほうが転居しており音信不通。まず依頼主を探し当て、取り置きをお願いしていた古書店の所在を伝えて無事縁をつなぐことができ、喜んでもらえ何よりでした。

依頼主の記憶が曖昧なケース。『グリブグリデン』という本を探して欲しい、といわれ内容をよくよく聞き出してみるとどうやら『デジデリオラビリンス』(森下典子)のことらしいと判明し、そこからは簡単だった。しかしご高齢の女性から

その昔、お慕いしていた年上の学生さんが「●●様へ」と書き入れして贈ってくださった赤いハイネの詩集を戦中・戦後の混乱で手放したか紛失してしまった。その本の現物(同じ版ではなく)を見つけてほしい

と頼まれた「その本」は流石に見つけられず……「赤いハイネ詩集」の出版社さえも特定できていないのはちょっと悔しいですね。

【お持たせ】基本的にはお気遣いなく。感謝をこめて記録。

薄氷本舗 五郎丸屋 木.林(きりん)

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木.林

【お茶菓子】クネーテン チョコクッキーとレモンメレンゲ

東京都文京区にあるオーガニックスイーツカフェ|KNETEN