第11回読書会『ムーミン谷の彗星』報告
(2019年9月14日開催,参加4名)
世界観について
・2章でじゃこうねずみに「地球がほろびる」と聞かされムーミンとスニフは塞ぎ込む。「いまは青くなくて黒くなってしまった宇宙」という描写に、子供時代のノストラダムスの大予言のトラウマが甦った。
・ヴェルヌの『地底旅行』を思い出した。
・旧約聖書(出エジプト記)に出てくる10の災厄を連想する。とくに「いなご」が出てきたところ。
・ムーミン谷周辺の地理が謎。天文台なら山頂ちかくにありそうなものなのに、「川の真ん中をたどっていけ。丸い屋根の変わった建物が天文台だ」というムーミンパパの道案内はアバウトすぎ!
←本に載っている地図も、川と海との間に山が位置するという不思議な地形になっている。川をたどっていくとトンネルになり地下に入る、という状況をつくるための苦肉の策か。
登場人物(キャラクター)について
・「ムーミン」「スノーク」「ヘムル」アニメの印象から個人(個体?)名かと思っていたら、どうやら種族名のよう。固有名詞のない世界なのか?
←有名なスナフキン(英語名)は「ムムリク」という種族の一個体の名前で、snuff(嗅ぎタバコ)に由来。しかしこれは例外的で、とくにヘムルは「昆虫採集のヘムル」「スカートをはいたヘムル」と明らかに別個体なのにとくに名前を与えられていないものが多数存在する。
・ひたすら東に向かっているニョロニョロは軍隊の暗喩?
←没個性な点で、任務中の兵士に通じるものはあるかも……。コミュニケーションの成立しない、ムーミン達にとってのエイリアン的な存在。その行動は電気(雷)と密接な関係があるらしい。
・スノークの「おじょうさん」の両親はいずこに?
←スノーク一族についてはシリーズ全体を通してとくにルーツが明らかにされていない。アニメではムーミンのガールフレンドとしてのノンノン、その兄のスノークは頻出キャラだが、童話では意外に出番が少ない。
・ムーミン族とスノーク族の関係は?
←近い種族であることはたしか(形状はほぼ同じ、違いは毛髪の有無、体色が変化するか否かくらい)。むりやり深読みすれば、フィンランド国内で共存しているスウェーデン系住民とフィン系住民の関係性がモデルになったのかも……。
・トーベ・ヤンソンは女の子が嫌い? スノークのおじょうさんについて外見をやたら気にしたり、彗星が迫っているのにダンスをしたがったり、ムーミンを助けようとしてかえって石をぶつけてしまったり、「足手まとい」な感じの描写をしているが。
←たしかにムーミン・シリーズの中では新装版 ムーミン谷の夏まつり (講談社文庫)に登場するミーサと並んで数少ない「女のコ」的キャラクター。トーベの子供時代は兄弟と活発に遊んでいたため、スノークのおじょうさん的な女の子にはあまりシンパシーを感じなかったのかも。
その他
・シリーズの後のほうではほぼ「誰でも出入り自由」というオープンなムーミン屋敷だが、『彗星』冒頭では警戒レベルが高くぴりぴりしている。パパが夜中に食器を割ってしまったときに全員が飛び起きて集まってきた。ママは「どろぼうがはいってきたのかと思いましたわ」と言っている。
・ムーミンが服を着る?! 1章の挿し絵にムーミンパパ&ムーミンママのナイトガウン姿(激レア)、3章ではムーミンママが天文台に向かうムーミンの荷作りをしてやっているときに「セーターを二まい」持たせる描写が!
・5章で家路を急ぐムーミン一行がテントや調理用品を谷底に捨てる描写は、『指輪物語』の終盤でフロドとサムが荷物を捨てる場面を連想させる。
・彗星の衝突までのカウントダウンという切迫した状況が描かれる一方、子どもが喜ぶイベントや遊び(宝探し、子どもたちだけで遠出、天文台で一人前扱いされて話を聞かせてもらえる、売店で買い食い、アンゴスツーラとの立ち回り、竹馬に乗って海を渡るetc.etc)がてんこ盛りで、サービス満点。
おまけ(英語版)
Comet in Moominland: Can Moomintroll save his beloved valley? (Moomins Book 2) (English Edition)
- 作者: Tove Jansson
- 出版社/メーカー: Farrar, Straus and Giroux (BYR)
- 発売日: 2014/09/02
- メディア: Kindle版
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ムーミン谷の彗星 - COMET IN MOOMINLAND【講談社英語文庫】を持参された方がいらしたのですが(上掲Kindle版と内容は同じ)、よく見ると章立てが違い(日本語10章に対し、英語版12章)、またなんと仔猫も登場せず代わりにsilk-monkey(キヌゲザル)が登場、当然日本版にはないその挿し絵もあります。日本語版の訳者解説に
この本は、原作が新しく書き直されて、やっと昨年(一九六八年)の秋に出版されたところです。それで、このトーベ・ヤンソン全集では、第七回の配本になりましたが、もとの作品は、この全集の中でいちばん古いのです。(略)
この「ムーミン谷の彗星」は昨年の秋に「彗星せまる」という題名で出版された原書を訳しました。一九四六年に出版されたときは「彗星を追って」という題名でした。それが、一九五六年には、「彗星を追うムーミントロール」と改められ、こんどは「彗星せまる」になったのです。ヤンソンさんが、これほど手塩にかけられた作品は、ほかにありません。(略)
この本に出てくる、ねこの話などは、前にはありませんでしたけれども、作品の大筋までがかわったのではありません。
とありますが、英語の本は1946年版の翻訳です。平易な英文&Kindleですぐに入手可能なので、ムーミンシリーズを読み尽くしてしまって残念な思いをしている方は読み比べてみるのも一興かもしれません。スナフキンの反社会的な過去にもちょっと言及があるとかないとか……。
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