読書会「K社のとなり」

定員5名ていど、期間限定で開催中の小さな読書会の記録です。

第7回読書会(課題本形式)『宝島』報告

(2019年5月18日開催,参加3名)

『宝島』3バージョンとサバラン

第7回報告

 

訳によって印象が相当違う!

今回参照した訳本は

宝島(新潮文庫) 2016年刊(a.)

宝島 (光文社古典新訳文庫) 2008年刊(b.)

完訳 宝島 (中公文庫) 1999年刊(c.)

の3冊。参考までに、船員たちが何かといえば歌い出す『宝島』の主題歌ともいえる歌の一節、

Fifteen men on the dead man's chest

Yo-ho-ho, and a bottle of rum!

の訳を以下に列記してみます。

(a.)鈴木恵 訳

十と五人が 死人の箱に――

よお、ほの、ほ でラム一本!

(b.)村上博基 訳

死人箱島に流れ着いたは十五人

ヨー、ホッ、ホー、酒はラムがただ一本

(c.)増田義郎 訳

死人の箱にゃ十五人――

ヨー・ホー・ホー、それにラム酒が一壜さ!

新潮文庫版だけ、どういうわけか「目次」が付いていない。討論する際に引用箇所が探しにくくてちょっと困りました。また、中公文庫だけ冒頭に宝島の地図がなくまさかの省略?! と焦りますが第6章の口絵として67頁にちゃんと載っていますのでご安心を。

今回、三人で上記の三訳を見比べた結果は、意外にもいちばん古い中公文庫がいちばん読みやすいかも……という結論になりました。とくに、要所要所で車地(キャプスタン)とか四分儀とか海賊旗(ジョリー・ロジャー)とか日本人にはイメージが湧きにくい事物を口絵で図解してくれているのが非常に助かります。残念ながら新刊では品切れですが、Amazon他の中古市場では容易に手に入るので、ご興味を持たれた方は一読されてみてはいかが。

完訳 宝島 (中公文庫)

完訳 宝島 (中公文庫)

 

 登場人物について。

●ジョン・シルヴァーってサイコパス?

←サイコパスの特徴のひとつに(最初のうちは)「非常に魅力的」ということがあるそうですね。シルヴァーは教育もあり、ある程度の財産も形成し、船員仲間にも、地主やリヴジー先生にも一目置かれている。

しかし第32章でもうすぐ財宝が手に入りそうと見るやいったん助けたはずのジム少年など「邪魔な目撃者」でしかなくなる、その手のひら返しが読んでいて実におそろしい。

●やはりジョン・シルヴァーについて。形勢の先読みが得意なわりにいつも綱渡りの状況に陥るのはなぜ?

←そもそも法を犯しており常に逃亡中だから場当たり的になるのかも?

←性格的に、綱渡り状況が愉しくてたまらないのではないか。

●ジム・ホーキンスが(子供とはいえ)勝手なことをしすぎ!

←ただ、シルヴァーの人質になった時に誓いを守って逃げなかったことでかなり好感度が高まった。

←結果オーライとはいえ、発作的に行動に移すところは、本当にひやひやする。堅物で規律第一主義のスモレット船長が「お前は生まれながらの運命の寵児なんだから、私には手にあまるよ」と、働きは認めつつもさじを投げているところが印象的。

●リヴジー先生カコイイ

←しかし、医師・兼・治安判事という地域にとって重要な職務についているわりにはあっさりと宝探しの冒険旅行に同行しているが……

●忠実な老僕トム・レッドルースの死(第18章)。泣ける

←その直後に船長が糧食の欠乏を指摘し「ひとつ口が減っただけでも、その分助かったといいたくなるほどの不足」と発言。身も蓋もないほどに現実的!

←生前、ジム・ホーキンスには受けがよくなかった。「じいさんは不平を鳴らし、メソメソするだけだった」(第7章)

●海賊たちの無軌道さに呆れる(第32章)

連中は牛を一頭あぶれるほどの火をおこしており(略)

それと同じ浪費の精神で、肉も自分たちの食べられる量の三倍ぐらい料理しており、ひとりがへらへらと笑って残ったものを火に放り込んだ。(略)

ここまで明日のことに無頓着な人間たちにはお眼にかかったことがなかった。

食糧確保の見通しが立っていない島でこの状態。どういう神経してるの?

←イギリスに帰れば絞首刑が待っているとなると、酒を飲み、飽食するぐらいしか発散する場所がないのかも。そもそも船乗りになったのも、自分が望んだわけではないという可能性も高い。イギリスには強制徴募という悪名高い制度があり、海軍で人員が不足すると、港町の盛り場に行って役に立ちそうな男を誘拐したり、海上で船を止めて船員を拉致することも許されていた時代があるので。

その他

●第4章、海賊の襲撃を前に村人の誰もジムとお母さんに手を貸さないところが一番怖かった。

←当時の状況では、秩序を守る警察、軍隊のような組織が近くにあるわけではない。関わり合いになれば自分の身を直接危険にさらすわけだから、知らぬ顔を決め込んだ人々を責められないかも……。

●なんでこんなに女っ気がないの? 

←出てくる女性はジムのお母さんと、言及されるだけの「シルヴァーのかみさん」くらい。本当に男だけの話。読者を少年に絞っているからだろうか?(『宝島』は、スティーヴンスンの妻ファニーの連れ子ロイド・オズボーンに捧げられている)

 

主催者(ワッピー氏)から

今回、『宝島』を取り上げるにあたってどんな角度からツッコめるか考えたのですが、「ポストコロニアル的評論」はできませんでした。ジムたちが島に渡った時期は、中公文庫のあとがきによれば1760年ごろ、舞台となる島はカリブ海のヴァージン諸島あたりにあるとのことだが、アメリカ植民地については一切ふれられていない。

アメリカを連想させるのはジムが島で目撃したガラガラヘビについての一行のみで、結局、人物・行動あたりがツッコミやすかったのでした。

 

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※この後、フリートーク&突発アフター企画 につづきます。