読書会「K社のとなり」

定員5名ていど、期間限定で開催中の小さな読書会の記録です。

第1回小海町読書会(課題本形式)『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』

(2019年11月9日開催,参加5名)

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小海町読書会

ヨルさん主催の記念すべき第一回小海町読書会@小海町図書館。協賛というかたちでワッピー&palukoも初の小海町に出張してきました。東京でSmall Talk読書会を主催されているよっし~さん、長野県内から烏山ちとせさんも急遽参戦! 各人トピック出しにも熱が入り、イベントのコメント欄では当日語りきれなかったうさぎ談義がまだ続いているという……。

bookmeter.com

全貌をレポートするのは難しいので進行&さわりだけという感じで何とかまとめてみたいと思います!

読書会の進行

1.自己紹介(ハンドル名・好きなこと・24時間以内にあったいいことor新しいこと

2.トピック出し(各人が気になったところ、印象に残ったところ、疑問を感じたところ、などを1テーマにつき1枚というかたちで自由に付箋紙に書いて提出)

3.音読タイム(各人が好きな箇所を選び、1~2頁ていど音読。この間に進行役が2で集まった付箋をテーマ別に分類して次のトークタイムに備える時間稼ぎも兼ねる)

4.トークタイム(2で出たトピックに沿って付箋を書いた人から補足説明、疑問に対し他のメンバーからこういうことでは?と示唆するなど。触発されて自分の連想など自由に語るも良し)

5.クロージング(読書会に対する感想、参加前と後で課題本の印象がどう変化したか? など)

ウサギか、人間か

・『ウォーターシップ・ダウン』では児童文学の動物ものによくあるような擬人化がされていない。人間とは違う知覚形式で世界をとらえていることが、たとえばタバコの表現(燃える白い棒)によくあらわれている。

・また鳥のキハール、ねずみ、などの動物にもそれぞれの世界のとらえ方があり、うさぎとは異なっていながらある程度通じ合える(生け垣共通語の存在)ことも興味深い。

・この作品の時代的な意味とは(原書の発表は1972年)。

←米ソ冷戦の最中だったこともあり、それぞれのうさぎの村を自由主義・共産主義陣営になぞらえたり「ウンドワート将軍はスターリンか?」などの質問を作者のリチャード・アダムズは何度となく受けたが、あくまでも「自分はうさぎの物語を書いただけ」という立場を崩さなかった。

・一方で「先達のおくりものによってぶじに生きている現在をわきまえないうさぎというものは、自分ではそう思っていなくても、ナメクジよりあわれなものです」(31章)という一文もあり、歴史認識を重ねたくなる作品であることもたしか。

・宅地造成に先立ってうさぎをガスで殺す必要はあったのか?(どうせ重機など入れたら大多数は死んでしまいそうなものなのに)

←西洋人の「自然は人間が徹底管理すべき」という思想に則った行動か。

←ブルドーザーでぐちゃぐちゃにするよりも先にきれいに(?)処分しておくほうが人道的?!

←野兎病とか、人間にも感染する病気の拡がりを怖れたのでは。またうさぎが逃げだして周辺に拡散すると農業的にも望ましくないとか?

物語について

・サンドルフォードの繁殖地を最初に脱出した11匹のうさぎの中で、意外にも誰も死んでいない。普通、こういう群像劇的なストーリーだと仲間のために犠牲になって死を遂げるとか、逆に考え無しに軽率な行動をしたものが早々に脱落(=死)とか、ありそうなもの。

←しかし途中で重傷を負ったうさぎの、回復後の後遺症的なものも描写されており、「誰も傷つかない」安易なご都合主義という感じはまったくない。

・21章で、わなの村のカウスリップたちがサンドルフォードから命からがら脱出してきたホリーたちを襲撃したのはなぜ?(特に害を為していないのに…)

←ヘイズルたちがわなの村を脱出する直前、「ビグウィグがわなにかかって死にそうだ」と村のメンバーに助けを求めている。村の最大のタブー、「わな」の存在を公言してしまった。

←おそらくあの後、わなの村は従来のかたちで存続することは難しく社会が崩壊してしまったのでは(知ってしまったことを知らなかったことにはできないので)。その恨みがヘイズルたちの「一味」とみなされたホリーらに向かったと考えられる。

・31章で、インレの黒うさぎ(「死」の擬人化的な存在)は「取引きはしない。ここでは、すべてが定めどおりにしかならないのだ」と言ったが、結果的にエル=アライラーの民が救われたのは定めどおりだったのか、それともエル=アライラーの行動を見たインレの黒うさぎが定めを曲げて救ったのか?

←エル=アライラーはインレの黒うさぎに対してでも最後まで術策を用いることを諦めていない。しかし賭けに負けて尾とひげと耳、さらに心身の力まですべてを失う。

←「全てをさしだした者のみが救済される」というルールだったのか。

←すべて失っても「岩をけって進もうとした」(自分の民を救いに行こうとしていた)エル=アライラーの行動にインレの黒うさぎが動かされたのか?

←この部分にたぶん「正解」はないと思われる。ただ、この物語を語るようダンディライアンに強いて所望したのがエフラファ潜入任務を目前にしたビグウィグだったことは興味深い。

・「ダージン王」(とその軍勢)ってどんな生きもの?

←31章で「夜の闇の中にかき消えてしまった。(略)どんな生きもので、どんな姿かたちだったか、いっさい語れないのはそのためだ。その日から今に至るまで、彼らは一匹として姿を見せていない」とある、謎の生物たち。

←ヒントとしては、15章の記述からレタスを珍重しているらしい(草食)、妻が複数おり子どもがたくさんいた(多産系)、ラブスカトルが王や家来たちの「子ども」に偽装して紛れ込むことができた(うさぎに似た姿?)。

←エル=アライラーを長としていないうさぎ、もしくは巨大うさぎ(人間に対する巨人族、みたいな感じで)だったのではないか(palukoの個人的推理)。

・エフラファのウンドワート将軍は、潜入目的のビグウィグが「村に入れてほしい」とやってきたとき「まともなうさぎが自分からすすんでエフラファに入れてもらいにくるなどまったく変なことだ」と思った。

←要するに自分の作り上げた社会のひずみ?息苦しさ?をうすうす自覚している。意外と根はいいやつ?

←なんでその「誰も入ってきたくないような村」を維持しているのか。

←最初は天敵から群れを護り、疲れ切っためすに代わって巣穴を掘るなど良いリーダーだった。組織が巨大化するにしたがっていろいろ変質してきたような。そしてもう自分では歯車を止められない……

あれこれ

・各章の冒頭に置かれたエピグラフが格好いい。というか、ここに引用されているのがきっかけで手に取った本が何冊もある。

・白いたちとは何か?

←今ではすっかりペットとして定着した「フェレット」のことですね。あの細長い体でうさぎの穴に楽々潜り込むことができ、仮に同体重で並んだら犬・猫など比べものにならない殺傷能力を備えているとかで、うさぎにとっては相当の脅威と思われ。

・泥炭地とはどんなところ?

←湿地帯で、あちこちに泥炭を切り出した四角い人為的な穴が開いている。隠れ場所はあっても湿っぽいため、うさぎの棲み家としては好ましくない。

 

……余力があったら続きを書く、かも。当日の盛り上がりっぷりの一端は分かっていただけるのではと思います。