読書会「K社のとなり」

定員5名ていど、期間限定で開催中の小さな読書会の記録です。

第1回「タワーのふもと」読書会(課題本形式)『キリマンジャロの雪』

(2020年2月16日開催,参加3名)

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@Blue Baobab Africa

護国寺のお茶菓子係ぱる子主催の記念すべき第一回「タワーのふもと」読書会@港区麻布台のカフェBlue Baobab Africaさん。

bookmeter.com

シャーロックホームズ好きの集い で存在を知った東京タワーお膝元のアフリカカフェ。この雰囲気の中でアフリカを主題にした本を読んだら素敵だろうな~というぱる子の夢想から立ち上げた読書会の新レーベルが「タワーのふもと」です。アフリカを主題にした本、とざっくり言いましたが実はぜひこれを読んで語り合いたい! という意中の作品があるのですね。事情により第1回の課題本にすることはできず、本日は『キリマンジャロの雪』で。底本は

1. ヘミングウェイ短篇集 (ちくま文庫)

2. 勝者に報酬はない・キリマンジャロの雪: ヘミングウェイ全短編〈2〉 (新潮文庫)

3. ヘミングウェイ短編集〈下〉 (岩波文庫)

キリマンジャロの豹

 キリマンジャロは雪に覆われた標高一九七一〇フィートの山で、アフリカでもっとも高い山と言われている。西側の頂はマサイ族の言葉でヌガイエ・ヌガイ、「神の家」と呼ばれている。その頂にほど近いあたりにひからびて凍った豹の死骸がある。豹が何を求めてそれほどの高さまで登ったか、説明できる者はいない。(ちくま文庫p.213より)

あまりにも有名なこの豹の存在ですが、実はケニア山(標高5199m。標高5895mのキリマンジャロに次ぐアフリカ第二の高峰)でも約900年前のものと推定される豹の死骸が見つかっています。(参照:http://www.africa.kyoto-u.ac.jp/~mizuno/mizuno-rireki.html)その頃地球は暖かく、クレバスにはまった豹の死骸がその後の寒冷な時代に氷河の中で保存され、20世紀に入って温暖化で露出した。つまりキリマンジャロも大昔はヒョウの生活圏だったのかもしれない?! と考えるとこの冒頭の神秘性、不条理性が薄まってしまう気もしますが。

主人公ハリーと作家ヘミングウェイ

創作に全力を出し尽くすことなく、「愛しているんだ、ほんとうは」(ちくま文庫p.227)といったお馴染みの嘘、「それによって食い扶持を稼いできた」と過去を振り返るハリー。「女を愛したとき、かならずその女は前からつきあっている女よりも金持ちだった」と述懐しており、ジゴロ的な生活を送っていたようにも読めます。

大恐慌でアメリカ国内に生活困窮者があふれる中、二度目の妻ポーリーンの裕福な親族から多額の財政援助をうけ優雅な生活を送っていたヘミングウェイ自身の強烈な「負い目」の感覚が反映しているのでは? という意見がありました。

また、2 新潮文庫  3 岩波文庫 では主人公の一人称が「おれ」、1 ちくま文庫では「ぼく」となっており、それだけでも主人公の印象がかなり変わってくる、という声あり。

病気とか訳語とか、いろいろ

・ハリーの病気は「ガス壊疽」と思われる。軽微な傷から命にかかわる重症に…という展開、Dr.Houseの症例でブラのホックでひっかいた傷から感染して死んでしまった女性の話を思い出した(シーズン3 第20話)。

・ヘレンが出かけていって仕留めた獲物は雄羊? ガゼル?←原文はa Tommie。ガゼルと訳したのはトムソンガゼルという解釈か。トムソンガゼルはたいへん美味だとか!

・字体を変えてある(岩波文庫では漢字カタカナ交じり文)ハリーの回想場面。ちくま文庫p.244から始まる回想ではトリベルク(ドイツ)からいきなりコントレスカルプ広場(フランス)に舞台が飛んで、ハリーの朦朧とした意識状態をうかがわせる。ゆっくりした走馬灯のよう。

・「朝だった」(岩波文庫「朝だ」)で始まる、飛行機到着の場面。ハリーがヘレンに口述する新たな小説の書き出しとも見えて、構成が秀逸。

・死神の「息が臭い」というのは、壊疽の悪臭も反映しているのだろうが、ユニークな表現で印象的。

いずれは読みたい『キリンヤガ』

 版元品切れで新刊が手に入らない、ということで第1回の課題本にすることはできませんでしたが、たとえば東京都なら59館の図書館に蔵書があり、ネットで古本の入手も可能。SFで、異星の話でありながら、間違いなくアフリカ小説なのです……!

キリンヤガ (ハヤカワ文庫SF)

ぜひ手に取って、「空にふれた少女」一篇だけでも読んでみてください。そして、Blue Baobab Africaで共に語り合いましょう。

 

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